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第4遺産分割の方法

遺産分割の方法には、遺言による分割、協議による分割、調停による分割、審判による分割の4種類があります。
  • 遺言による分割
    被相続人は、遺言で分割の方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託することができます(民法第908条)。
    「分割の方法を定める」とは、例えば、「妻には自宅土地建物を、長男には田畑を、長女には現金1000万円を相続させる」というように、分割の具体的な方法、すなわち、各相続人の取得すべき遺産を具体的に定めることです。また、個々の財産をその性質や形状を変更することなく相続人に配分する現物分割、相続人の一部にその相続分を超える財産を取得させ、他の相続人に対し債務を負担させる代償分割、遺産を換価処分してその価額を分配する換価分割、いずれによるべきかの指定もできます。
    なお、遺言がないとき、遺言があっても被相続人の指定又は第三者の指定が無効であるとき、あるいは第三者が相当の期間に指定をしない場合は、以下の手続によることになります。
  • 協議による分割
    (1)内容
    共同相続人全員の合意により遺産を分割する手続で、最も一般的な分割方法といえます。
    共同相続人というのは、民法でその相続について相続権を認められている人のことですが(例えば、妻と子が共同相続人の場合に、子が相続放棄をすると今度は妻と親<親がいなければ兄弟>が共同相続人になりますので、一口に共同相続人といっても、同じ被相続人についても流動的な要素があります。)、共同相続人と法定相続分をいくつか例示すると次のようになります。協議による分割の場合は、後記のとおり、法定相続分によらない遺産分割も共同相続人間で合意すれば特に問題はありません。
    (イ) 相続人が被相続人の子の場合(妻<または夫>がいない<離婚もしくは既に死亡>とき)
    この場合、被相続人(亡くなった人)の親兄弟がいても、子だけが共同相続人(子が一人の場合はその子一人だけが相続人)となります(民法第887条第1項)。
    実子も養子も同じ権利があります。実子には養子(特別養子を除く)に行った子も含まれます。
    子の間では、長男二男、長女二女といったこととは無関係に平等の相続分(均分相続)となります(民法第900条第4号)。
    もっとも、子のうち、非嫡出子(婚外子)は嫡出子の相続分の2分の1とされています(民法第900条第4号但書)。具体的にみると、例えば、A・Bが嫡出子、Cが非嫡出子とすると、A・Bの相続分は各5分の2、Cの相続分は5分の1となります。
    いわゆる先妻の子と後妻の子とは、どちらも嫡出子ですから、相続分は平等です。
    なお、相続法税法上は、子供としてカウントできる養子の数に制限がありますが、民法上はこのような制限はなく、何人養子があってもいずれも実子と同じ扱いになります。
    (ロ) 相続人が妻(または夫、以下、亡くなった人の配偶者を妻で代表させることにします)と子の場合
    この場合、被相続人に親兄弟がいても、親兄弟は相続人になりません。
    法定相続分は、妻2分の1、子供たちは残りの2分の1を前記(イ)の割合で相続することになります(民法第900条1号、4号、なお共同相続人となることにつき民法第887条第1項、第890条)。
    例えば、妻と子供2人であれば、妻2分の1、子供はそれぞれ4分の1となります。この点は、妻が後妻で子供が先妻の子であっても同じです。後妻と後妻との間の子が2人、先妻との間の子が2人であれば、後妻2分の1、子供たちは、それぞれ8分の1(1/2×1/4)ずつとなります。
    妻と非嫡出子が2人いる場合、妻は2分の1、子は残った2分の1を平等の割合でという原則どおり、妻2分の1、子は4分の1ずつとなります。
    (ハ) 相続人が子と亡くなった子の子(孫)の場合
    この場合は、子と孫が共同相続人となり、孫のことを代襲相続人といっています(民法第887条第2項)。
    相続分は、亡くなった子が生存しているものとして子の間では平等(均分相続)であり、亡くなった子の相続分は孫たちの間で平等に分けられることになります(民法第900条第4号、第901条)。
    例えば、A・B・C3人の子のうち、Cが亡くなっていて、D・E2人の孫がいるとき、A・B各3分の1、D・E各6分の1の相続分になります。
    (ニ) 相続人が妻と子と亡くなった子の子(孫)の場合
    この場合は、妻と子と亡くなった子の子(孫)が共同相続人になり(民法第887条第1項第2項、第890条)、妻の相続分は2分の1、子と孫の相続分は、残りの2分の1を前記(ハ)の割合で分けたものとなります(民法第900条第1号、第4号、第901条)。
    (ホ) 妻も子もなく、親が健在の場合
    この場合は、親が共同相続人(1人であれば、その親だけ)となります(民法第889条第1項第一号)。亡くなった人に兄弟がいても兄弟は共同相続人とはなりません。
    被相続人が養子(特別養子を除く)に行っている場合、実父母と養父母の4人が相続人となり、その法定相続分は平等(各4分の1)となります(第900条第4号)。
    もし、実父は既に死亡し、実母と養父母が健在の場合、その法定相続分は3人平等で、実母3分の1、養父母も各3分の1となります。
    特別養子の場合は、養父母だけが相続人となります(民法第817条の9)。
    (ヘ) 子がなく妻と親がいる場合
    この場合は、妻と親だけが共同相続人となり、亡くなった人に兄弟がいても、兄弟は相続人とはなりません(民法第889条第1項第一号、第890条)。
    法定相続分は、妻が3分の2で、残りの3分の1を親が前記(ホ)の割合で相続分を持つことになります(民法第900条第2号、第4号)。
    例えば、妻と両親がいる場合、法定相続分は妻3分の2、両親各6分の1(1/3×1/2)ずつとなります。
    (ト) 妻も子も親もなく、兄弟がいる場合
    この場合は、兄弟が共同相続人となり、法定相続分は、平等です(民法第889条第1項第二号、第900条第4号)。
    但し、兄弟間で父母とも共通する兄弟(全血の兄弟といった言い方をしています)と父母いずれか一方を共通にする兄弟(いわゆる胤違い・腹違いの兄弟、半血の兄弟といった言い方をしています)がいる場合、半血の兄弟の相続分は全血の兄弟の2分の1とされています(民法第900条4号但書)。
    例えば、A・Bが亡くなった人と父母を同じくする兄弟、C・Dが亡くなった人といわゆる腹違いの兄弟の場合、法定相続分はA・Bは各6分の2(3分の1)、C・Dは各6分の1となります。
    また、養子は実子と同じ扱いですので、A・Bが亡くなった人の血縁のある兄弟で、Cが亡くなった人の父母と養子縁組をしていた場合、Cも血縁のある兄弟と同じですので、法定相続分はA・B・C各3分の1ずつとなります。
    なお、亡くなった人に妻も子も親もなく、祖父母がいても、祖父母は代襲相続人にはなりませんので、相続権はありません。この場合、兄弟がいれば、兄弟が相続人になります。
    (チ) 子も親もなく、妻と兄弟がいる場合
    この場合は、妻と兄弟が相続人となり、法定相続分は、妻は4分の3で、残りの4分の1を兄弟が前記(ト)の割合で相続分を持つことになります(民法第900条第3号第4号、なお共同相続人となることにつき民法第889条第1項第二号、第890条)。
    例えば、妻と兄弟A・B2人がいる場合、法定相続分は妻4分の3、A・B各8分の1(1/4×1/2)となります。
    (リ) 子も親も妻もなく、兄弟と亡くなった人の亡兄弟の子(甥・姪)がいる場合
    この場合は、前記(ハ)と同様の考え方になります。亡くなった兄弟が生存しているものとして、兄弟間の法定相続分は前記(ト)で述べたようになり、甥・姪は亡くなった兄弟の法定相続分を(イ)の法定相続分で分けることになります(共同相続人になることにつき民法第889条第1項第二号、第2項、第887条第2項、法定相続分につき第900条第4号、第901条第2項、第1項)。
    例えば、亡くなった人の妹A、亡くなった人の亡兄Bの子C・Dがいる場合、妹A2分の1、C・D各4分の1(1/2×1/2)となります。
    なお、甥・姪の更に子供は、代襲相続権がないため、子も妻も親も兄弟も甥・姪もいないときは、甥・姪の子供がいても相続人はないことになります。
    (ヌ) 子も親もなく、妻と兄弟及び亡くなった人の亡兄弟の子
    (甥・姪)がいる場合
    この場合は、前記(ニ)と同様の考え方になります。
    亡くなった兄弟が生存しているとして、妻の法定相続分は、4分の3、残りの4分の1を、兄弟、甥、姪が前記(リ)の割合で分けることになります(民法第900条第3号、第4号、第901条第2項、第1項。なお,共同相続人となることにつき民法第889条第1項第二号、第2項、第887条第2項、第890条)。
    例えば、妻と亡くなった人の兄弟A・B、亡くなった人の亡姉Cの子D・Eがいるとき、妻4分の3.A・B各12分の1(1/4×1/3)、D・E各24分の1(1/4×1/3×1/2)となります。
    (ル) 子も親も兄弟も甥・姪もなく、妻だけがいる場合
    この場合は妻だけが相続人ですので、法定相続分は全部ということになります(相続人となることにつき民法第890条)。
    (ヲ) 相続放棄の場合
    共同相続人のうちの誰かが相続放棄をしたとき(民法の定める相続放棄は、家庭裁判所にその旨申述しなければなりません。<民法第938条>)、相続放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法第939条)、法定相続分は、相続放棄をしなかった人だけを共同相続人とする前記(イ)ないし(ル)の割合となります。
    例えば、妻と子供3人がいて、子供1人が相続放棄したとき、妻2分の1、放棄をしなかった子供各4分の1となります。もし、妻だけが相続放棄すれば、子供たち3人は、3分の1ずつの法定相続分を有することになります。
    (ワ) 付記(法定相続分の検算)
    法定相続分を計算したときの検算は、共同相続人全員の法定相続分を加えて、1になるかどうかを確かめるといいでしょう。1になったからといって、必ずしも正しいとは言い切れませんが、きっちり1にならずに1に足りなかったり、1を超えたりしたときはどこかに誤りがあります。
    共同相続人は、被相続人が遺言で分割を禁じた場合(民法第908条)を除くほか、いつでもその協議で遺産の分割をすることができます(民法第907条第1項)。協議の成立には、共同相続人全員の意思の合致が必要です。ただし、分割協議後、死後認知による被認知者が現れた場合については、協議をやり直す必要はなく、被認知者は価額のみによる支払請求ができるにすぎません(民法第910条)。全員の意思の合致がある限り、分割の内容は共同相続人の自由に任されており、指定相続分あるいは法定相続分に必ずしも従う必要はありません。したがって、特定の相続人の取得分をゼロ(何も取得しない)とするような分割協議も有効と考えられています。
    但し、前記1の遺言により遺産分割方法の指定がなされている場合に、共同相続人がこれと異なる分割協議を行うことができるかは問題です。
    この点については、共同相続人全員の同意があれば、一定の範囲(被相続人の意思を全く没却するものとはいえない範囲)で遺言と異なる分割協議をすることもできるとする考えが主流です。
    (2)遺産分割の当事者
    遺産分割協議の当事者は、各共同相続人です(民法第907条第1項)。また、相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者(民法第990条)及び相続分の譲受人、包括遺贈の場合の遺言執行者も当事者となります。これに対し、特定受遺者は、遺言の効力発生と同時にその財産を取得するため、当事者とはなりません。
    これら当事者の一部を除外して分割協議を行った場合、分割協議自体が無効とされる可能性がありますので、注意を要します。
    (3)遺産分割協議書
    協議が成立した場合、遺産分割協議書を作成するのが一般です。不動産の登記等の名義変更のことを考えると、遺産分割協議書には各相続人が署名するとともに実印による押印がなされるべきでしょう。
    遺産分割協議書を作成するにあたっては次のようなことに注意して下さい。
    (イ) 何といっても共同相続人の確定を誤りのないようにする。
    遺産分割は、共同相続人全員でしなければなりませんので、亡くなった人の戸籍謄本・除籍謄本を14~15歳ころ(生殖可能年齢)から,できれば出生時から死亡時まで連続するように(途中の“落ち”がないように)取寄せて共同相続人を確定して下さい。養子に行ったりしていると行った先で生まれた子供が被相続人の死亡時の戸籍には記載されていないというようなことや転籍(本籍を移すこと)が多いと思わぬところに共同相続人になる人がいたりすることがありますので(残された子供たちA・Bの全然知らない子C<A・Bからすると実の兄弟>が幼いとき養子に行っているような例もあります。)、この点はくれぐれも注意して下さい。共同相続人の確定に不安が残るようでしたら、専門家に相談してみるのも一つの方法と思います。
    (ロ) 遺産の確定を間違えないようにする。
    例えば、共同相続人の全員が、被相続人の遺産だと思っていても、登記簿をみると、被相続人の先代の名義になっていたりすることがあります。このような場合、現在の共同相続人だけでは遺産分割できないことがあります。銀行預金等についても被相続人の名義でないものは遺産分割協議書を作成しても、これだけでは銀行側は預金の名義変更に応じてくれないでしょう。銀行としては、それが被相続人の預金であることが確定できないからです。このような場合は、遺産とみていいのかどうか遺産とみることができるにしてもどのような手続を経れば遺産としての扱いができるのかといった問題がありますので、やはり、そのことに詳しい人や専門家に相談するのがいいでしょう。
    以上のように、名実ともに、誰がみても遺産といえるものは問題は少ないのですが(共同相続人間でそれが遺産を構成するのかどうか争いになることもありますが、このような場合は後述の調停等の手続によることが必要になると思われます。)、問題のありそうなものは、遺産分割協議書を作成する前に、遺産として分割していいかどかきちんと確認しておくことが必要です。
    (ハ) 協議がまとまったら、誰がどの遺産を相続するのか、疑問の残らない形で、記載するようにする。
    例えば、妻〇〇は、△△の土地建物を取得するとした場合、土地建物の特定については、地番や家屋番号などに間違いが生じないよう不動産登記簿謄本(登記事項証明書)と照らし合わせて記載して下さい。地番や床面積などに違いがあると登記の際困ることが生じますので(遺産分割協議書は、登記原因証明情報として使われることが一般的です。)、一字一句、不動産登記簿謄本(登記事項証明書)と合わせることが望まれます。
    長男〇〇は、××の銀行預金を取得するとする場合も、銀行、支店名はもちろん普通預金か定期預金かといった区別から口座番号まで書いておくと特定としては十分でしょう。このときも書き間違えないようにして下さい。
    もっとも、相続開始時に〇〇銀行△△支店に存する被相続人名義の預金全部といった書き方でも取得財産が特定できれば差支えありません。
    なお、銀行預金やゴルフ会員権では、預金等の名義変更について、銀行やクラブ所定の同意書等を要求するところがありますので、事前に問い合わせておくのが無難でしょう。
    その他の遺産(株式,賃借権等)についても、遺産の内容を特定し、誰がどの遺産を取得するのか、第三者がみても疑問のない形で作成して下さい。
    これについても調印前に専門家にチェックしてもらうと安心でしょう。
    (ニ) 自署、実印、印鑑証明書添付とする。
    署名を代筆としないのは、後に自分の署名したものではないといったトラブルを避けるためです。ですから高齢等で自分の名前も書くのが困難といった場合はともかく、代筆はできる限り避けて下さい。
    実印によるのは、登記や銀行預金の名義変更等の場合、実印によることが求められることや、それぞれ自己の意思によるものであること明確に残しておくためです。印鑑証明書は、実印による印影であることの証明になります。
    遺産分割協議書は各共同相続人が一通ずつ所持することになりますので、印鑑証明書等もそれに応じた枚数を用意するとよいでしょう。
    (ホ) 付記(債務の分割、代償分割について)
    遺産分割協議書で住宅ローンなどの債務についても、誰が支払うか決めることはできますし、共同相続人間では有効な合意です(可分債務は、前記第2の2のとおり、法理論上は、遺産分割の対象とはなりませんが、共同相続人間での合意は可能です)。
    もっとも、債権者としては、支払ってもらえない場合、遺産分割協議書の定め如何にかかわらず、債権額を共同相続人の法定相続分に応じて請求することができます。そうでないと、もし債務を一番資力のない相続人に相続させた結果、債権者からすると取立不能に終わる(不良債権化する)ようなことになっては困るからです。
    ですから、共同相続人としては、ある相続人が債務を負担する旨の分割協議書を作成しただけでは安心できませんので、もし債務を負担してもらう代わりにプラスの財産もその人に相続させるというような合意(協議)をする場合、確実にその相続人に支払ってもらえるかどうかを見極めたうえで合意することが大事です。
    また、ある相続人Aが、多くの遺産を取得した場合、他の相続人B・Cに対しては、AからB・Cに対し、代償として金銭を支払うといった分割方法(代償分割といっています)も有効ですが、この場合も、B・Cとしては確実に代償金を支払ってもらえるかどうかを見極めておくことがやはり大事でしょう。代償分割は、後述の調停や審判でも時々目にする分割方法の一つです。
    なお、遺産分割協議書を作成したときの効力(遺産分割をするとどのような効果が生じるか)については、後記第5遺産分割の効果のところを参考にして下さい。
    また、せっかく遺産分割協議書を作成しても、合意過程(例えば、共同相続人のうちの誰かの意思表示に錯誤があったとき)や合意当事者に問題のあったとき(例えば、共同相続人のうちの誰かを外した状態で、合意したとき)などには、遺産分割協議の無効や取消といった問題が生じてきます。これらの点については、後記第6の遺産分割の無効、取消、解除のところを参考に、できる限りこのようなことにならないよう注意して下さい。
    以上のように、協議による分割ができれば、それに越したことはありませんが、何らかの事情で協議が整わないときは、調停や審判の手続により分割することになります。
    調停というのは、かいつまんでいうと、家庭裁判所で調停委員(会)または裁判官(家事審判官)に中に入ってもらって共同相続人の話合いで遺産分割の解決を目指す方法です。
    審判は、調停ができない(調停不成立)場合などに裁判官(家事審判官)の判断により遺産分割の内容を決めてもらうことになるもので、民事事件でいうと判決に相当するといっていいでしょう。これに対し、調停は民事事件でいうと和解(裁判上の和解)と同様に考えられます。
    これらについての詳しいことは、以下の調停による分割等をご参照下さい。
  • 調停による分割
    (1)内容
    共同相続人間で遺産分割の協議が調わないとき、又は、協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができます(民法第907条第2項)。
    ここでいう協議が調わないとは、分割の方法について共同相続人間の意見が一致しない場合のみでなく、分割をするかしないかについての意見が一致しない場合も含むと解されています。
    まず、調停を申し立てることが一般ですが、直接審判の申立てをすることもできます。いきなり審判を申立てた場合であっても、家庭裁判所はいつでも職権で事件を調停に付することができます(家事審判法第11条)。この調停が成立すると、確定した審判と同一の効力を生じます(家事審判法第21条第1項但書)。
    調停は当事者である共同相続人の合意にその基礎をおくものですから、実質的には家庭裁判所における調停委員会もしくは家事審判官のあっせんによる協議分割とみることができます。したがって、必ずしも法定相続分あるいは指定相続分に従う分割である必要はないと考えられています。また、相続債務、遺産からの果実、遺産の管理費用及び相続税等の清算を調停手続の中で行うなど、その運用は柔軟になされています。
    (2)申立の手続
    (イ)当事者
    遺産分割調停の当事者は、各共同相続人です(民法第907条第1項)。また相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者(民法第990条)及び相続分の譲受人、包括遺贈の場合の遺言執行者も当事者となります。これに対し、特定受遺者は、遺言の効力発生と同時にその遺産を取得するため、当事者とはなりません。
    相手方の中に行先不明の者がいる場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に対して行い、財産管理人を調停手続に参加させる必要があります。
    (ロ)管轄裁判所
    調停の申立は、相手方の住所地又は当事者が合意で定める地を管轄する家庭裁判所に対して行います。相手方が複数存在し、住所地が異なるときは、その中のいずれの家庭裁判所に対しても申立てることができます(家事審判規則第129条第1項)。
    (ハ)調停手続
    (a)調停機関
    調停は、家事審判官及び調停委員をもって組織する家事調停委員会がこれを行います(家事審判法第3条第2項本文)。実務上は、弁護士その他の専門家を含む2名の調停委員が家事審判官の意見を聞きながら、事件の実情の聴取、調停の勧告が行われることになります。
    (b)調停手続
    遺産分割調停は、調停期日に、当事者その他の関係者を出頭させて非公開で行われます。
    申立人と相手方は、交互に調停室に入室し、個別に調停委員から事情聴取されることとなります。
    (c)分割の基準と態様
    調停による遺産分割は、当事者間の合意に基礎をおく一種の協議による分割であると考えられ、分割の基準及び方法、態様に制限はありません。
    しかし、現実問題として、相続分、寄与分その他一切の事情を考慮した、法的にも社会的にも妥当な分割態様によらなければ、調停の成立は困難です。
    (d)隔地者等出頭困難な者がいる場合の手続の特則
    当事者が遠隔の地に居住していたり、病気、老齢等の理由により、調停期日に出頭することが客観的に困難な場合、あらかじめ調停委員会又は家庭裁判所から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなして、当事者のなかに出頭が困難な者がいても調停が成立します(家事審判法第21条の2、家事審判規則第137条の7、第137条の8)。
    (ニ)調停手続の終了
    遺産分割調停事件の終了事由には、調停の成立、調停の不成立(不調)、調停申立ての取下げ、及び調停の拒否があります。
    (a)調停の成立
    調停において当事者間に合意が成立し、調停機関(調停委員会もしくは裁判所)がその合意が相当であると認めてこれを調停調書に記載することにより調停が成立します(家事審判法第21条)。
    調停が成立すると、確定した審判と同一の効力を有します(家事審判法第21条)。また、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の具体的給付義務を定めた調停調書の記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有します(家事審判法第21条第1項但書)ので、執行文等の付与を要することなく直ちに強制執行をすることができます。
    また、相続人(どの相続人でも可)は調停調書の正本を相続を証する書面として添付して単独で登記申請をすることができます。
    (b)調停の不成立(不調)
    1)当事者間に合意の成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認められる場合には、調停機関は調停は成立しないものとして事件を終了させることができます(家事審判規則第138条の2)。これを調停の不成立(不調)といいます。
    合意の成立する見込みがあるかないかの判断は、調停機関によってなされます。合意が相当でない場合とは、一人の相続人のみに著しい不利益を課すことを合意内容とする場合等、正義、衡平の観点から不相当と考えられる場合をいいます。
    2)調停が不成立で終了した場合には、調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされ、遺産分割事件は審判手続に移行し、審判手続が開始することになります(家事審判法第26条第1項)。
    審判手続の開始は当然に行われ、当事者の申立ての必要はありません。実務上は調停事件を取り扱った裁判所が審判事件を行うことになっています。
    (c)調停申立ての取下げ
    1)申立人は、調停の成立又は不成立までの間であればいつでも遺産分割調停の取下げをすることができます。取下げに理由はいりませんし、また訴訟手続と異なり、相手方の同意も必要ありません。但し、審判から調停に付された事件においては、調停のみの取下げはできません。
    2)取下げの方式は、書面(取下書)もしくは口頭ですることになっていますが、実務上は書面で行われています。
    (d)調停の拒否
    家事審判規則第138条は調停機関が「調停をしない」ことができる旨を定めていますが、事実上、調停が拒否されることはまずないといえます。
  • 審判による分割
    (1)内容
    遺産分割の協議が調わなかったり、協議ができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に対して、遺産分割の審判を請求することができます(民法第907条第2項、家事審判法第9条第1項乙類10号、第2項)。
    また、遺産分割の調停を申立てたが、遺産分割調停が不成立となった場合、調停申立時に審判の申立てがあったものとみなされ、審判手続に移行します(家事審判法第26条、家事審判規則第138条の2)。審判分割においては、家庭裁判所の審判官が、民法第906条の分割基準に従って、各相続人の相続分に反しないよう分割を実行することになります。
    金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他給付を命ずる確定した審判により、相手が任意に履行しない場合、強制執行ができます(家事審判法第15条)。
    (2)申立ての手続
    (イ)当事者
    審判の当事者は、調停の場合と同じです。
    (ロ)管轄裁判所
    審判の申立は、被相続人の住所地又は相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行います(家事審判規則第99条第1項)。
    但し、調停が不成立となって審判に移行した場合には、原則として調停手続を行った家庭裁判所において審判手続が行われます。但し、相続財産の鑑定に著しい支障が生じる場合や尋問を要する参考人等が他の管轄家庭裁判所区域内に多数存在するなど、事件処理をするために適当であると認められる場合には、他の管轄家庭裁判所に移送することができます(家事審判規則第4条第2項)。
    (ハ)審判手続
    (a)審判機関
    家事審判法第3条第1項においては、「審判は、特別な定めがある場合を除いては、家事審判官が、参与員を立ち合わせ又はその意見を聴いて行う。但し、家庭裁判所が相当と認めるときは家事審判官だけで審判を行うことができる。」と規定されています。
    しかし、実際の運用では、家事審判官が単独で審判を行っています。
    (b)審理手続
    家事審判手続は、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図るため(家事審判法第1条)、国家が後見的見地から私人間の法律関係に積極的に介入し、裁量的、合目的に具体的な権利、義務関係を形成する手続です。
    したがって訴訟手続と異なり、家庭裁判所は、職権で事実の調査及び必要と認める証拠調を行い(家事審判規則第7条第1項)、非公開で行われます(家事審判規則第6条)。
    また、やむを得ない事由があるときを除き、事件の関係人自身が出頭することが要求されています(家事審判規則第5条第1項)。
    (c)分割の基準と態様
    1)「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」ことが要求されています(民法第906条)。
    2)審判においては、分割協議や遺産分割調停と異なり、家庭裁判所が裁量により相続分を増減することは許されないとされています(最判昭36.9.6)。
    3)分割の態様には、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割、用益権設定による分割及びこれらを併用する等の方法があり、一切の事情を考慮して裁判官の裁量的判断により審判されることになります。
    (ニ)審判手続の終了
    遺産分割審判事件の終了事由には、審判、審判申立ての取下げ、調停の成立があります。
    (a)審判
    1)審判には認容の審判と却下の審判とがあります。
    認容の審判は、申立てが適法であり、かつ遺産分割の処分をなすべきものと認められる場合になされるものです。
    却下の審判は、申立てが不適法、又は分割の理由ないし必要がない場合になされるものです。
    2)遺産分割審判は、これを受ける者が告知を受け、即時抗告期間(即時抗告権者が告知を受けた日の翌日から起算して2週間とされています。家事審判法第14条、家事審判規則第17条)が経過すると確定し効力を生じます(家事審判法第13条)。
    確定した審判により、執行文の付与を要することなく直ちに強制執行することができます。
    3)審判に対し、不服のある当事者は、即時抗告をすることができます(家事審判法第14条、家事審判規則第111条)。
    即時抗告期間は、審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間であり(家事審判法第14条、家事審判規則第17条)、審判をした家庭裁判所に即時抗告の申立てをしなければなりません(家事審判法第7条、非訟事件手続法第25条、民事訴訟法第331条、第286条)。
    抗告審が即時抗告の理由があると認めたときは、原審判を取消した上、事件を原審家庭裁判所に差し戻すのが原則であり(家事審判規則第19条第1項)、すでに事実関係が明らかであるなど「相当であると認めるとき」には原審判を取り消して自ら「審判に代わる裁判」をすることができることになっています(家事審判規則第19条第2項)。
    また、抗告裁判所は事件を家庭裁判所の調停に付することもできます(家事審判法第8条、家事審判規則第18条、家事審判法第19条)。
    (b)審判申立ての取下げ
    申立人は、審判の確定前であればいつでも審判申立を取下げることができます。この場合、民事訴訟手続と異なり相手方の同意は不要です。但し、数人が共同して申立てをしている場合には、全員の取下げが必要です。取下げは書面又は口頭で行うことができますが、実務上は書面により行っています。
    (c)調停の成立
    審判から調停に付され、その調停が成立した場合には、審判は何らの手続を要せず当然に終了します。