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(4) 遺産分割の無効、取消、解除

(イ)無効

(a)当事者の意思表示に錯誤がある場合
遺産分割協議は、権利義務の変動を決定する契約の一種と考えられることから、当事者の意思表示の重要な事項につき錯誤がある場合には、錯誤無効の規定が適用され、無効となります。調停による分割も当事者の合意に基礎をおくものであるため、同様と考えられています。
但し、軽微な事情に関する錯誤は無効事由とはなりませんし、錯誤が重大な過失に基づくときは無効とはなりません。
(b)共同相続人の一部を除外して分割協議がなされた場合
1)戸籍上相続人であることが分割協議当時判明していた場合
遺産分割協議は、相続人全員の意思の合致によりなされなければなりません。したがって、戸籍上判明している相続人を除外してなされた遺産分割協議は無効です (昭和32年6月21日、家甲46号、最高裁判所家庭局長回答)。
また、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされていますので 包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議も無効です。
相続人から相続分を譲受けた者を除外してなされた遺産分割協議も無効と解されています。
2)分割協議後に相続人であることが判明した場合
イ.失踪宣告の取消
失踪宣告により死亡したとみなされた者を除外して遺産分割協議がなされた後、生存していることが判明し、失踪宣告が取り消された場合でも、分割協議自体が無効になることはありません。
失踪宣告の取消を受けた者は、他の相続人に対し、現に利益を受けている限度において、その返還を求めることができます。
ロ.認知された子を除外した場合
相続開始後、認知によって相続人となった者が遺産分割の無効を主張したり分割のやり直しを求めることはできず、価額のみによる支払請求権を有するにすぎません。
ハ.その他の場合
相続人である胎児が出生した場合や、離婚無効判決、離縁無効判決がなされた場合等が考えられます。
この場合、遺産分割協議そのものの無効を主張できるのか、認知のように価額賠償のみが認められるのかは問題となりますが、遺産分割協議は、相続人全員による合意を基礎としていますから、民法が規定していない場合にまで価額賠償による解決を及ぼすべきではなく、相続人を除外してなされた遺産分割として無効とすべきであると考えられます。
判例も、母子関係存在確認の訴えで勝訴した子が存する場合につき、認知に関する価額賠償の規定を類推適用することはできないとしています (最判昭54.3.23)。
(c)相続人でない者を加えて遺産分割協議がなされた場合
遺産分割当時から相続人でない者が相続人として分割協議に加わっている場合と、分割協議当時は一応相続人であるとされていた者が、協議成立後に、婚姻無効判決、縁組無効判決等の確定によって相続資格を喪失する場合があります。
相続人でない者を遺産分割協議に加えた結果、正当な相続人が遺産分割協議から排除された結果となる場合には、相続人の一部を除外してなされた遺産分割協議といえ、無効と解すべきです (大阪地判昭37.4.26)。
一方、相続順位に変更をきたさない場合には、非相続人に分割された財産を取り戻したうえで、これを未分割遺産として真正相続人間で分割すれば足りるとする考え方が主流です。
(d)遺産の一部を除外して分割した場合
判例は、分割協議の目的とした一部の遺産と残余財産との区別や両者を分離して処理することについての当事者の合意が不十分である場合、協議は無効であるとしています (高松高判昭48.11.7)。
一方、遺産全体に照らすと、除外した遺産がごく一部であって、当初の遺産分割を無効とするまでの必要がないときは、当初の遺産分割は有効で、後に未分割遺産のみを分割することも許されると解すべきでしょう。
(e)非遺産を分割の対象とした場合
最高裁判所昭和41年3月26日判決は、遺産分割の対象とされた財産が民事訴訟手続において非遺産であると認定された場合について、分割の審判はその限度において効力を失うと判示しています。
すなわち、非遺産を分割の対象とした場合でも遺産分割全部が無効になるとする必要はなく、非遺産の部分についてのみ効力を失うだけで、あとは相続人間の担保責任の問題として処理すれば足りると解されています。
(f)分割協議後に遺言の存在が判明した場合
1)遺言により相続人資格が変更される場合
遺言により認知や廃除をしていた場合など、相続人資格が変更される場合があります。
その結果、相続人の一部を除外してなされた分割協議、相続人でない者を加えてなされた分割となる場合には、遺産分割の効力が無効になります。
2)遺贈がなされていた場合
遺産の全てを遺贈している場合には、遺産分割の対象たる財産は存在しないことになり、遺産分割は無効となります。
非相続人に対して、一部の財産の包括遺贈がなされている場合、包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議は無効となります。
相続人に対して一部の財産の包括遺贈がなされている場合には、各相続人がこのような遺言があることを知っていれば、そのような遺産分割協議をしていなかったであろうと考えられる場合に、錯誤により無効となります。
特定遺贈がなされていた場合には、遺言の効力発生と同時に受遺者がその財産を取得することになります。したがって、その財産は遺産分割の対象ではなく、その財産に関する限り分割協議は無効です。さらに、財産の遺産に占める割合、重要性等からして、分割協議全体が無効となる場合もありえます。
3)相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止の遺言が存することが判明した場合
分割協議の当事者が、このような遺言があることを知っていれば当初のような分割協議をすることはなかったと考えられる場合には、錯誤により無効となりえます。

(ロ)取消

遺産分割協議に際して詐欺行為や、強迫行為があれば、それらを理由に取り消すことができます。
また、遺産分割そのものの瑕疵ではありませんが、遺産分割を詐害行為取消権によって取り消すこともできると考えられています。

(ハ)解除

(a)債務不履行による解除
遺産分割協議において、相続人の1人がある遺産を取得する代わりに、他の相続人に対し債務を負担することがあります (代償分割)。この代償債務の不履行があったときに、他の相続人は債務不履行を理由に遺産分割協議そのものを解除できるかが問題となります
最高裁判所平成元年2月9日判決は、老親を扶養するという債務の不履行が問題となった事案につき、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は協議において特定の債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであること、遡及効を有する再度の遺産分割を余儀なくすると、法的安定性が著しく害されることを理由に、分割協議そのものの解除を否定しています。
(b)合意解除
最高裁判所平成2年9月27日判決は、共同相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をなしうることは、妨げられるものではないと述べています。
ただし、合意解除及び再分割をした場合に、税務上、分割後の贈与であると認定されて贈与税が課されるおそれがありますので、再分割をする際には慎重な配慮が必要といえます。